令和8年度 第1学期終業式 講話
皆さん、おはようございます。
本日、こうして皆さんと一緒に令和8年度1学期の終業式を迎えられたこと、本当にうれしく思います。
この1学期、多くの生徒の皆さんが真剣な眼差しで授業や実習に励んでくれました。いつもどんな日も、実習や座学、資格試験への挑戦に真摯に向き合い、たくさんの知識や技術を吸収した皆さんの努力に、心から拍手を送ります。本当によく頑張りました。
さて、今日は1学期の締めくくりにあたって、少し未来の話、「今、君たちがここで毎日がんばっていることが、実は今、世界中で一番求められている『すごいこと』なんだ」というお話をします。
先日の新聞に、少し気になるニュースが載っていました。
今、全国的に「工業高校離れ」が進んでいるという記事です。少子化などの影響で、全国の多くの公立工業高校で志願者が定員を下回る現象が起きています。(【参考】日本経済新聞2026年5月25日の記事)
これを聞いて、「工業高校の人気がないのかな」と不安に思う人がいるかもしれません。
しかし、現実はまったく逆です。
入口の人気が下がっている一方で、出口の社会から君たちへの「助けてほしい」「来てほしい」という期待は、これまでにないほど跳ね上がっています。
国の調べによると、今から10数年後の2040年、日本の産業界全体で「工業科出身の技術者が『91万人』も足りなくなる」と予測されています。その一方で、普通科出身の人材は32万人も余ると言われているのです。
現に、工業高校生の求人倍率は全国平均で31倍を超えています。これは「生徒1人に対して、31社以上もの会社が、ぜひ来てほしいと手を挙げている」ということです。
ちなみに、本校の求人倍率は、その全国平均の倍以上の数値に達しています。
さらに、世界一のIT国家であるアメリカでも、AIには真似できない、自分の手で機械を動かせる優秀な技術者たちが高い給料をもらって大活躍しています。
かつて昭和の時代、日本のものづくりを支え、日本を豊かな国に成長させた工業高校の卒業生たちは、社会から敬意を込めて「金の卵(きんのたまご)」と呼ばれました。
そして令和の今、世間がなんとなく「工業高校離れ」などと言っている間に、時代はぐるりと巡り、狭山工業にいる皆さんこそが、これからの未来を支える「新しい時代の金の卵」になっているのです。
では、なぜこれほどまでに、君たちのような「技術を持つ人」が世界中で求められているのでしょうか。
世界中の教育の専門家たちが集まる「OECD」という国際組織があるのですが、そこが「これからの予測がつかない難しい時代を生き抜くために、一番大切な力」として、ある言葉を発表しました。
それは、「エージェンシー」という言葉です。(【参考】OECD Education 2030プロジェクトについて)
難しい言葉ですが、簡単に言うと、「誰かに言われたからやるのではなく、自分で考えて、自分で行動し、新しいものを自分の手で作り出していく力」、そして「独りよがりではなく、よりよい変化に向けて、さまざまな声に応答して考え、責任をもって行動する力」のことです。
私は、この世界が求めている「自分で考えて形にする力」や「責任をもって行動する力」を、日本で一番身につけられる場所こそが、工業高校であると確信しています。
今の時代、スマートフォンを開けば、何でも「分かったつもり」になれます。動画を見れば、ものづくりの手順も、頭では理解したように思えます。
しかし、古くから言われる有名な言葉があります。
「百聞は一見に如かず(ひゃくぶんはいっけんにしかず)」です。
ネットや教科書で「百の情報を調べる」ことよりも、実際に自分の目で「一度見る」こと、いや、工業高校においてはさらにその先、「実際に自分の手で一度触れ、一度動かしてみる」ことのほうが、何千倍も価値があるということです。
どれほどAI(人工知能)が進化しても、削り出された金属の「100分の1ミリのズレ」を手や目で触れて感じることや、動かなくなった機械の前に立ち、かすかな音や匂いから故障の原因を突き止めることは、画面の中のAIには絶対にできません。
自分で考えて動き、自分の五感をフルに使って、実際に形あるものを創り出す。
この「自分で考えて形にする力」や「責任をもって行動する力」こそが、これからの時代を動かしていく最強のエンジンです。
皆さんは、未来を生き抜くための「最強のプラチナチケット」を持った、本物の「金の卵」なのです。この事実に、もっと大きな自信と誇りを持ってください。
しかし、ここで皆さんに強く伝えておきたいことがあります。
どれほど君たちが価値ある「金の卵」であっても、それを支える「人間としての土台」がグラグラであっては、その卵は簡単に割れてしまいます。
だからこそ、私がいつも皆さんに伝えている二つの言葉を、この節目に今一度、心に刻んでほしいのです。
一つ目は、「凡事徹底(ぼんじてってい)」です。
挨拶をする、時間を守る、整理整頓をする、道具を大切にする、安全を確認する。
これらは、実習を安全に行い、社会で信頼される技術者になるための「絶対の基本」です。どんなに素晴らしい技術を持っていても、片付けができない、時間を守らない人が作ったものを、社会は信用しません。「当たり前のことを、誰にも負けないくらい徹底的にやる」ことで、君たちという金の卵は、本物のピカピカに光る黄金へと磨かれていきます。
実は、本校を訪れるお客様から、皆さんの「挨拶」について本当によくお褒めの言葉をいただきます。まさに「凡事」の徹底ではあるのですが、校長として大変嬉しく思いますし、皆さんのその姿勢が、最近の狭山工業高校の落ち着いた、素晴らしい雰囲気を作ってくれていると感じています。本当にありがとうございます。これからもぜひ、継続していきましょう。
二つ目は、「初心忘るべからず(しょしんわするべからず)」です。
皆さんがこの狭山工業の校門をくぐったとき、「この技術を身につけたい」「ものづくりで面白いものを作りたい」と胸に抱いた、あの最初のワクワクした気持ちを覚えているでしょうか。
夏休みを前にした今、もう一度自分の原点に立ち返り、「自分はなぜここで学んでいるのか」を見つめ直してください。
明日から、長い夏休みが始まります。
この夏休みは、学校という枠を超えて、皆さんの「自分で考えて行動する力」や「責任をもって行動する力」を発揮する絶好の機会です。
まさに「百聞は一見に如かず」です。スマホの画面ばかりを見る夏にするのではなく、実際に自分の足を動かして、世の中の「本物」を、自分の目で直接見る夏にしてください。そして、「凡事徹底」を意識して生活リズムを整え、「初心」を思い起こして、自分が今やるべきことに情熱を注いでください。
特に、3年生にとっては、この夏はいよいよ進路を決定する勝負の夏になります。企業や社会は、皆さんのような「金の卵」を心から待っています。自信を持って、万全の準備に臨んでください。
最後になりますが、校長から皆さんへの、一番の宿題であり、絶対にお願いしたいことを伝えます。
それは、「9月1日の2学期始業式に、全員が元気な姿で、再びこの場所に揃うこと」です。
交通事故や水の事故、そして熱中症には十分に気をつけて、皆さんにとって実り多き、素晴らしい夏休みにしてください。そして、9月1日の始業式で、また元気な皆さんとお会いしましょう。