令和7年度 第2学期始業式 校長講話
皆さん、おはようございます。
長い夏休みを終え、こうして全員が元気な姿で第2学期を迎えられたことを嬉しく思います。夏休み中、部活動や課外活動に励んだ人、家族や友人との時間を大切にした人、そして新たな挑戦に取り組んだ人もいたでしょう。それぞれが過ごした夏の経験を、これからの成長にぜひつなげてください。
さて、今日から始まる第2学期は、水泳大会や文化祭といった学校行事、さらには進路選択や学びを深めるなど、多くの大切な場面を迎える学期です。この節目に、これまで私が皆さんにお伝えしてきた3つの言葉を改めて振り返りましょう。
「初心忘るべからず」・・・この第2学期のスタートにあたり、自分の原点をもう一度思い出してみてください。
「凡事徹底」・・・日々の挨拶や授業への取り組み、時間を守ることなど、当たり前のことを誰にも負けないくらい徹底して行うこと。
「百聞は一見に如かず」・・・夏休み前の1学期の終業式では、夏休みはぜひ「本物を見て、体験する」時間にしてほしいとお話ししました。実践してくれたでしょうか?
さて、この夏、私は全国高等学校野球選手権大会、いわゆる夏の甲子園で活躍した岐阜県代表・県立岐阜商業高校の横山温大(はると)選手に注目しました。皆さんもご存知かもしれませんが、横山選手は生まれた時から左手の指がない障害がありながら、チームのレギュラーとして、この夏、地区予選、甲子園で活躍しました。
野球を始めたのは小学校3年生の時、当時は左手に義手をつけて、その上にグラブをはめてプレーしていたそうです。しかし、5年生のころに義手を使うことを断念。感覚のない義手を使うと、捕球などで難度が上がり、中学や高校では通用しなくなってしまうと考えたからでした。それでも野球を続けたい。
新しい方法が必要になる中で、大きなヒントになったのは腕に障害がある大リーグの選手、ジム・アボット投手です。アボット投手は、先天性の障害で右手首から先がありません。いわゆる「アボット・スイッチ」でボールを持ち替えて投げ、大活躍しました。横山選手にとって一筋の大きな希望が見えたのです。
アボット投手のようにいかにして素早くグラブを付け替えてボールを投げることができるか。横山選手はひたすら試行錯誤を続けました。右手につけたグラブで捕球したあと、瞬時にグラブを左脇に抱え、このあと右手でボールを握って投げる。他にもいろいろな形を試して、最も速い方法を探りました。捕ってからボールを握るまで1秒を基準に特訓し、今のような素早い動きができるようになるまで、およそ1年かかったということです。
横山選手が取り組んだのがもう1つ、バッティングです。左打席に入って右手でバットを握ります。両手でバットを振れず、打球もあまり強く打てませんでした。その分、右腕を徹底的に強化しました。
重さ25キロのダンベルなどで鍛え上げた結果、右腕は左腕よりひと回りも大きくなりました。スイングスピードは去年の秋から1年足らずで10キロ以上増したそうです。
たゆまぬ努力の結果、この夏はレギュラーを示す背番号「9」をもらいました。地方大会ではチームトップの打率5割を超え、決勝では3打数3安打の大活躍。その後の甲子園でも活躍し、県立岐阜商業高校のベスト4進出に大きく貢献しました。横山選手は、大学へ進学して野球を続けたい、プロ野球も目指していきたいと話しています。
【参考】「バッティングと守備 ほぼ右腕1本で 県岐阜商 横山温大選手」(NHKサイト)
さて、横山選手の活躍から学べるのは、まず「努力の大切さ」です。片腕でもバットを振るために右腕を強化した姿勢は、並大抵のものではありません。
もうひとつは「試行錯誤の重要性」です。いかにして素早くグラブを付け替えてボールを投げることができるか、いろいろな形を試して、長い時間をかけて最も速い方法を探しているところは、課題を自ら見つけ、解決策を探し続ける姿勢は探究活動の本質そのもの。失敗を恐れず挑戦し続けることの大切さを教えてくれます。
偉人たちも同じことを伝えています。トーマス・エジソンは「失敗は成功の母」という言葉の意味を深く考えさせてくれます。彼は、毎回の失敗を「うまくいかない方法を見つけた」という視点で捉え、次なる実験に活かしました。有名な言葉「私は失敗したことが一度もない。ただ、うまくいかない方法を1万通り見つけただけだ」は、まさに彼の探究心とポジティブな姿勢を表しています。
また、世界的企業「ホンダ」を創業し、ものづくりで日本を代表する人物となった本田宗一郎は「成功は99%の失敗に支えられている」という言葉を残しています。成功とは、失敗の積み重ねの先にあるもの。失敗を恐れずに挑戦し続ける姿勢が、いかに重要であるかを私たちに伝えています。
この第2学期に最も大切にしてほしいのは、「挑戦する勇気」を持つことです。どんな小さなことでも構いません。新しいことに挑む一歩を踏み出してください。特に工業高校で学ぶ皆さんには、ものづくりを通じて挑戦する場がたくさんあります。例えば、実習や課題研究の授業での製作やプログラミングもそうですし、2学期に予定されている文化祭の企画や地域のイベント協力でもそういうでしょう。目の前の課題に対して恐れず一歩を踏み出す姿勢こそが、皆さんの可能性を広げ、成長をもたらします。
まずは、目標や課題解決を目指して、失敗を恐れず、簡単にあきらめず、行動を重ねていってください。他人任せにせず、自ら行動することです。
次に、挑戦には必ず失敗がつきものだということを受け入れてください。試作品が思うように動かなくても、そこから得られる気づきは宝物です。失敗した原因をチームや先生と分析し、改善策を練るプロセスこそが、探究活動の大事なところです。
そして、目標を達成した後も「これで本当にベストか?」と自分たちに問い続けましょう。満足に甘んじず、答えの先を追い求める姿勢は、プロフェッショナルとして大切です。
横山選手がそうであったように、挑戦し続ける姿は周囲の応援を呼びます。私たち教職員も、生徒の皆さんの挑戦や努力を全力で支えます。皆さんにとって第2学期が成長と実り多き時間になることを心から願っています。
それでは、今日から始まる新しい学期を全員で力を合わせて頑張りましょう。 ありがとうございました。